臆病者のおっくんです。
失敗と挫折だらけの人生ですが、実際の経験によって得た知識を同じような悩みを抱える読者の皆さまと共有したいと思います。
今回は、おっくんが新卒で社会人になってからの約10年一貫して従事してきた人事・労務の仕事に関係する内容です。
多くの人にとって仕事は、一旦始まってしまうと簡単には立ち止まってその本質について考える時間の取れないサバイバル。
そこで、以下のような方々を対象に、おっくんがこれまでの経験を踏まえ、人事・労務の業務内容と役割をご紹介します。
<この記事の想定読者は?>
・新入社員でこれから人事・労務部門に配属される人
・「人事・労務部門って何をやっているんだろう?」と思っている他部門の人
・人事・労務部門に勤務をしている人で、その本質を再確認したい人
1.人事・労務とは
企業の中で働いた者として考えるに「組織及びその構成員に関する事象を扱う仕事」と理解していれば実体から大きなズレはないと思います。
2.役割
人事・労務部門を設置しているような規模の組織は、幹部、部門とその構成員で成り立っています。
人事・労務部門は、以下のとおり組織全体に価値を提供できる存在でなければなりません。
(1)対幹部のブレーン役
人事・労務スタッフは、幹部に対して経営に資する情報を示すとともに、的確な企画・戦略を提言することのできる存在でなければなりません。
様々なコストの中でも、人事・労務スタッフがコントロールすることのできる人件費は組織の中の最大のコストとも言われ、組織が売上げを出すのに掛かる人件費を示す指標である売上高/人件費率は、高い業種では50%を超えることもあります。
したがって、経営に対して重要なインパクトを与え得る人件費のコントロールや、人件費を掛けた分いかにして人材が生み出すアウトプットを最大化するかという課題を実現する上で、人事・労務スタッフは幹部にとってのブレーンでなければなりません。
(2)対部門のサポート役
人事・労務スタッフは、組織内の各部門に対して、的確なサポートを提供できる存在でなければなりません。
各部門が活動する上で必要となる人材を採用し、その維持・活性化のために必要となる人事異動や成果査定の運営を主導したり、退職者が発生すれば手続きをスムーズに実施したり、さらには労働時間に関する法令遵守に関して注意喚起をしたりと、各部門の人材のライフサイクルの始まりから終わりまで色々な場面で各部門をサポートする必要があります。
(3)対構成員のサービス役
人事・労務スタッフは、組織の中の幹部や各部門に対してだけではなく、構成員一人一人に満足してもらえるようなサービスを提供することのできる存在でなければなりません。
各種証明書の発行、所得税法上の年末調整等、人事・労務スタッフは構成員個人と接する場面があるため、迅速かつ正確に対応し、「この組織は働きやすい」と感じられるようなサービスを提供する必要があります。
3.業務内容
人事・労務という表現は、当たり前のように使われている一方で、その定義は不明確であり、組織によって考え方が異なるかもしれません。
しかし、文字のとおりにその意味を解釈するのであれば、「人事」は人そのものに着目していて、「労務」は人が行う労働/役務に着目した表現であるということになります。
実際に、人事・労務の仕事は、個別的労使関係を扱うか集団的労使関係を扱うかで二分することができ、前者が人事、後者が労務と考えて大きな間違いはありません。
具体的な業務内容を以下にご紹介します。
(1)人事
人事の業務内容は、主に人の動きに関わるものです。
ここで指す動きは、組織内外への人の出入りであったり、組織内での人の上がり下がりであったりします。
たとえば、採用、人事異動(配置変更)、出向/出向受入、長期欠勤/休職(傷病、育児等)、退職は人の出入りに関する業務となります。
また、成果査定、人事異動(昇格/降格)は人の上がり下がりに関する業務となります。
一人一人の個人と組織との関係、つまり個別的労使関係を管理するための業務であるとも言い換えることができ、取り扱う文書も組織とその構成員との契約書(雇用契約書、出向契約書、休職届、退職届等)であることが多くなります。
(2)労務
一方の労務の業務内容は、人そのものにではなく、人が行う労働/役務に関わるものが主となります。
たとえば、労働時間管理、給与計算、要員計画(人員計画/マンパワープラン)と当該計画を踏まえた人的経営戦略の提言、制度や規則の管理とそれらに関する労働組合/従業員代表との協議といった業務がこれに該当します。
構成員の集合体と組織との関係、つまり集団的労使関係を管理するための業務であるとも言い換えることができ、取り扱う文書も組織が特定の構成員に宛てるような内容ではなく、構成員全体又は構成員のうち特定のグループを対象とする規則や、労働組合/従業員代表と締結する労働協約や労使協定といったものであることが多くなります。
4.やりがいを感じる点&つらい点
(1)やりがいを感じる点
やりがいを感じる点は、以下のとおりです。
・経営の中枢で組織(事業/部門)を俯瞰的に見ることができる
・人件費という重要なコストをコントロールする立場にある
・経営幹部から一般構成員一人一人に至るまで、様々な人と接するチャンスがある
(2)つらい点
つらい点は、以下のとおりです。
・若いうちから幹部との距離が近く、緊張する場面が多い
・組織や構成員の将来/人生、お金に直接的に影響する決断を迫られることがあり、責任が伴う
・人を相手にすることが極めて多い仕事であるが、「過去と他人は変えられない」という言葉があるように、どんなに手を尽くしても自分の思ったとおりに業務が進捗しないことが多い
・スペシャリストであるよりもゼネラリストであることが求められ、担当変更や人事異動を命じられることが多い
・労働事情や慣行は国ごとに異なるものであり、コミュニケーションのミスも許されないため、海外勤務を経験できるチャンスは少ない
・人との関係性が重要なため、飲み会が多く、断りづらい
・サービス部門たることを追求し過ぎると頼まれごとを断りづらい
・組織やその構成員の中には、「人に関することは全て人事・労務スタッフに丸投げしてしまえ」との意識があり、あくまでサポート役であるとの自己認識とのズレに戸惑う
・事務作業はアシスタントに処理を頼らなければ付加価値の高い仕事に取り組むことができないが、アシスタントの事務処理能力が低いと自らが事務作業の処理やプロセス改善に追われる
・専門性の不要な誰にでもできる仕事と思っている人もいる(実際には、一つ一つの決断を下すのに過去の対応と連続性や部門/構成員間の公平性や将来への影響等を考慮する必要があり、高度な専門性は不要だとしても決して簡単な仕事ではない。)
5.向いている人&向いていない人
(1)向いている人
以下の特性をバランスよく兼ね備えていないと、仕事をやっていてつらいと感じる場面が多いと思います。
・人と関わることが好き
・空気が読める人(様々な人と接するに当たり、自分の立場を踏まえて柔軟な対応ができる人)
・文書作成能力が高い
・表計算を扱うことが得意
・マルチタスクが得意
(2)向いていない人
・人と関わることが苦手
・マイペースな人
6.今後の展望
人事・労務の仕事は、事務作業が多いのは事実で、実際にメインの担当者の下には複数のアシスタントが付くことも珍しくありません。逆に、事務作業をいかにして効率的に処理するかという点は重要課題の一つでもあります。このことから、今後人事・労務の仕事の一部が、大量の同種の情報を画一的に処理することに適したAIやRPAに取って代わられ、事務作業の効率化が進むことは間違いなさそうですが、それはあくまで一部の業務だけが対象になると考えています。
つまり、予測/コントロールができない他人を相手にし、その相手だけではなく同じ組織内の構成員の心情や公平性も考慮しながら、関係部門や経営幹部の意見を集約し、その組織に合った最適解を導き出すというような正に人事・労務スタッフの腕の見せ所のような業務については、大量の同種の情報を取り扱うような内容ではなく、当面は人の手によってしか解決できないものと考えます。
それどころか、災害や疫病、国の人的構造変化(少子高齢化、外国人労働者の増加)といった環境変化に対して、どのように就業スタイルを合わせていくのか、要員確保戦略を立てて実行していくのかという課題解決の局面において、人事・労務スタッフの活躍の可能性はこれまで以上に大きくなっているものと考えます。
20年6月18日